直腸脱は、骨盤内の支持構造が緩むことで、直腸が肛門から脱出する状態です。 この病態の発生には複数の要因が関与しており、単一の原因ではなく、複合的な要素が絡み合って起こることが多いです。 主な原因は、骨盤底筋や支持組織の弱化、腹圧の上昇、解剖学的異常などです。 以下に詳しく分類して説明します。
直腸脱の最も一般的な原因の一つは、骨盤底筋 (骨盤底を支える筋肉群) や周囲の靭帯、筋膜などの支持組織の弱化です。 これにより、直腸が正常な位置を維持できなくなり、脱出を招きます。
肛門括約筋の緩みが原因と思われている場合が多いですが、逆に、脱出の結果であることがしばしばあります。 腹腔鏡による手術をたくさんやってるとわかるのですが、ほぼ例外なく腸の固定や長さ、組織の脆弱性など、何かしら通常と違う解剖学的な変化があります。 すなわち、単に肛門が緩んで発症しているのではないことが理解できるのです。
肛門が緩むのは、直腸が脱出することで括約筋が引き伸ばされるからです。 したがって、肛門だけを直しても根本的な改善につながらないことは、原理的に考えればよく分かっていただけると思います。 また、直腸脱は子宮脱や膀胱瘤などの骨盤内臓器脱が併存している場合が多く、発生のメカニズムには同様な点が多いです。 骨盤底の支持組織の弱化が共通の基盤となっています。
慢性的に腹圧がかかる状態が、直腸脱の引き金になることがあります。 腹圧が繰り返し高まると、直腸を支える組織に負担がかかり、徐々に脱出を促進します。
硬い便や排便困難により、長時間いきむ習慣があると、腹圧が上昇し、直腸を押し下げます。便秘の持続が直腸壁の伸張を招き、脱出のリスクを高めます。患者の30-67%で慢性便秘が関連しているとされています。
トイレで長時間力を入れる癖、または重い物を持ち上げる作業、重度の咳嗽 (例: 慢性閉塞性肺疾患) などが腹圧を高めます。
また、精神疾患や認知症でいきみをやめられない場合もあります。 直腸が骨盤内で下がってくるのを便だと勘違いしてしまい、それをなんとか排出しようといきみ続けてしまうのです。 これが便ではないことを理解できればやめることもできますが、理解できない患者さんの場合には、出るはずのない落ち込んだ腸をなんとか押し出そうと頑張ってしまうので、それによってどんどん組織が伸びて悪化し、本格的な完全直腸脱に進展します。
生まれつきの体質や構造異常が、直腸脱の基盤となる場合があります。これらは後天的な要因と組み合わさって発症します。
これらの原因は相互に関連しており、例えば便秘が骨盤底筋の損傷を悪化させる悪循環を生むことがあります。 生活習慣の改善が予防につながりますが、発症したら手術でしか直すことができません。 完全直腸脱になってしまった場合は、その原因にかかわらず、腹腔鏡下の直腸つり上げ固定手術の適応となります。逆に言えば、どんな原因であっても治すことができます。