直腸脱の原因
直腸脱は、骨盤内の支持構造が緩むことで、直腸が肛門から脱出する状態です。 この病態の発生には複数の要因が関与しており、単一の原因ではなく、複合的な要素が絡み合って起こることが多いです。 主な原因は、骨盤底筋や支持組織の弱化、腹圧の上昇、解剖学的異常などです。 以下に詳しく分類して説明します。
骨盤底筋群および支持組織の緩みや損傷
直腸脱の最も一般的な原因の一つは、骨盤底筋 (骨盤底を支える筋肉群) や周囲の靭帯、筋膜などの支持組織の弱化です。 これにより、直腸が正常な位置を維持できなくなり、脱出を招きます。
- 妊娠・出産による影響: 妊娠中や出産時に骨盤底筋が伸張・損傷を受けやすいです。特に、複数回の出産や難産の場合にリスクが高まります。出産時のいきみや胎児の圧迫が筋肉を弱め、長期的に直腸の支持を失わせます。女性に直腸脱が多い理由の一つです。
- 加齢に伴う組織の衰え: 高齢になると、筋肉や結合組織の弾力性が低下します。コラーゲンの減少や筋萎縮により、骨盤底の支持力が弱まり、50歳以上で発症しやすくなります。特に閉経後の女性ではホルモンバランスの変化も影響します。
- 神経や脊髄の損傷: 脊髄損傷、外傷、または神経疾患により、骨盤底筋の神経支配が乱れ、筋力が低下します。これにより、直腸の位置が不安定になります。
肛門括約筋の緩みは原因ではなく結果かもしれません
肛門括約筋の緩みが原因と思われている場合が多いですが、逆に、脱出の結果であることがしばしばあります。 腹腔鏡による手術をたくさんやってるとわかるのですが、ほぼ例外なく腸の固定や長さ、組織の脆弱性など、何かしら通常と違う解剖学的な変化があります。 すなわち、単に肛門が緩んで発症しているのではないことが理解できるのです。
肛門が緩むのは、直腸が脱出することで括約筋が引き伸ばされるからです。 したがって、肛門だけを直しても根本的な改善につながらないことは、原理的に考えればよく分かっていただけると思います。 また、直腸脱は子宮脱や膀胱瘤などの骨盤内臓器脱が併存している場合が多く、発生のメカニズムには同様な点が多いです。 骨盤底の支持組織の弱化が共通の基盤となっています。
腹圧の上昇と排便習慣
慢性的に腹圧がかかる状態が、直腸脱の引き金になることがあります。 腹圧が繰り返し高まると、直腸を支える組織に負担がかかり、徐々に脱出を促進します。
慢性便秘
硬い便や排便困難により、長時間いきむ習慣があると、腹圧が上昇し、直腸を押し下げます。便秘の持続が直腸壁の伸張を招き、脱出のリスクを高めます。患者の30-67%で慢性便秘が関連しているとされています。
過度ないきみや生活習慣
トイレで長時間力を入れる癖、または重い物を持ち上げる作業、重度の咳嗽 (例: 慢性閉塞性肺疾患) などが腹圧を高めます。
また、精神疾患や認知症でいきみをやめられない場合もあります。 直腸が骨盤内で下がってくるのを便だと勘違いしてしまい、それをなんとか排出しようといきみ続けてしまうのです。 これが便ではないことを理解できればやめることもできますが、理解できない患者さんの場合には、出るはずのない落ち込んだ腸をなんとか押し出そうと頑張ってしまうので、それによってどんどん組織が伸びて悪化し、本格的な完全直腸脱に進展します。
解剖学的・先天性要因
生まれつきの体質や構造異常が、直腸脱の基盤となる場合があります。これらは後天的な要因と組み合わさって発症します。
- 先天性の骨盤内臓器固定不良: 直腸が骨盤内にしっかり固定されていない場合 (例: 骶骨の発育不全や直腸周囲の靭帯の緩み)、若年者でも脱出が起こりやすいです。幼児期の直腸脱はこれが主因で、成長とともに改善する可能性があります。(筆者は若年性直腸脱には対応していません)
- 大腸の過長 (結腸冗長): 大腸が通常より長い場合、直腸が弯曲しやすくなり、脱出を促進します。これは遺伝的要因が関与している可能性があります。
- その他の先天性疾患: 嚢胞性線維症やマルファン症候群などの遺伝性疾患が、組織の脆弱性を引き起こし、直腸脱のリスクを高めます。先天性の肛門閉鎖症 (鎖肛) の術後にも、直腸脱が発生することがあります。
その他のリスク要因
- 過去の骨盤手術や外傷: 骨盤手術 (例: 子宮摘出術) や骨盤骨折が支持組織を損ない、脱出を誘発します。また、直腸癌に対する直腸超低位前方切除術の晩期合併症として発生することもあります。
- 性差: 女性の方が骨盤構造上リスクが高く、全体の約80-90%を占めます。
- 生活習慣病の影響: 肥満が筋肉の弱化を加速させる可能性がありますが、逆に痩せたことによる筋力低下が大きく影響します。実際に、患者さんには非常に痩せた方が多いです。
これらの原因は相互に関連しており、例えば便秘が骨盤底筋の損傷を悪化させる悪循環を生むことがあります。 生活習慣の改善が予防につながりますが、発症したら手術でしか直すことができません。 完全直腸脱になってしまった場合は、その原因にかかわらず、腹腔鏡下の直腸つり上げ固定手術の適応となります。逆に言えば、どんな原因であっても治すことができます。
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筆者は現在東京都内の病院に勤務しており、関東全域のみならず遠方の患者さんの手術も数多く手掛けています。
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直腸脱 と思い込んでいたけれども単なる 脱肛 や 直腸粘膜脱 であったという方は多いです。 特に遠方からいらっしゃる場合には、ご近所の肛門科などではっきり診断されてからのほうがよろしいかと考えます。
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