よくある質問

以下にお示しする質問と回答は、筆者自身の見解です。 特に、高齢者に対する考え方や、腹腔鏡手術の適応に関しては、外科医によって見解が大きく異なるものです。 あらかじめご承知おきください。

90歳を越す高齢ですが、腹腔鏡手術を受けられますか?

全身麻酔がかけられれば可能です。手術の前に全身の検査をおこないますので、安全に手術を受けていただくことが可能です。

著者自身が手術した患者さんの最高齢は99歳で、年齢中央値は85歳です。 そのうち、40名以上の90歳以上の方が腹腔鏡手術を受けられ、治癒されています。

もしも、全身麻酔がかけられないと判断した場合には、デロルメ法やアルテマイヤー法を選択しています。

脱出するのは排便の時だけなので、以前に他の病院を受診した際には様子をみましょうと言われました。また受診しても結局無駄足になりませんか?

確かに診察の際に脱出を確認できなければ確定診断は困難であり、治療方針を決められません。

排便時のみや長時間の歩行後だけ脱出し、椅子に座ると元に戻ってしまう患者さんも多いため、なかなか確定診断にいたらず「気のせいだ」と言われた経験をお持ちの患者さんも多いです。

そのような場合には、スマホのカメラでよいので、飛び出した時の写真を事前に自宅で撮っておいて診察時にお見せいただければ、それだけで確定診断が可能です。

本人が高齢のため病院に連れていくこと自体が大変です。

手術ができるかどうかを判断するのはご本人抜きでは無理ですが、診断だけであれば飛び出した時の写真だけで可能です。

「写真があるので、まずは家族だけでの受診で説明を聞けませんか?」 と、受診される病院にお問い合わせいただくのが良いと思います。

直腸脱の手術をすると便失禁は治りますか?

直腸が脱出した状態では肛門括約筋が引き伸ばされてしまい、収縮する力が落ちてしまいます。 そのため、便失禁の状態になっている患者さんが大半です。

直腸脱の手術は、肛門括約筋自体を修復する治療ではありませんが、肛門括約筋が引き伸ばされなくなることで結果的に収縮力がある程度回復し、便失禁が改善することも期待できます。

個人差は大きいですが、便失禁が全くなくなった患者さんも多くいらっしゃいますし、大部分の患者さんは便や粘液による会陰部の汚染が減少しています。

ちなみに、「もともと肛門がゆるゆるの場合はティルシュ法で肛門を縫縮しないと術後に便失禁で大変なことになる」と思っている医療者もいらっしゃるのですが、それは誤解です。

歩いていると腸が飛び出すのが嫌で家にこもりがちになり、足腰が弱ってしまいました。手術を受ければ改善しますか?

直腸脱の手術をすれば手術直後より腸が飛び出さなくなりますので、安心して外出などできるようになります。そのため体力の低下を回避でき、再び健康的な生活を送ることができるようになります。

直腸脱だけでなく、子宮脱もあります。同時に治りますか?

著者が行っている腹腔鏡手術では、直腸とともに子宮も一緒に吊り上げて固定できますので、程度や原因にもよりますが、子宮脱も改善する場合がほとんどです。

子宮と卵巣の摘出手術を受けていますが、手術を受けられますか?

可能です。 子宮や卵巣を摘出すると骨盤底の支持組織が失われますので直腸脱や膀胱脱になりやすくなります。 そのような患者さんではお腹の中に癒着がありますので、腹腔鏡の手術は技術的には困難で時間がかかりますが、根治手術は十分に安全に施行可能です。

他の医療機関で断られた患者さんでも、著者自身は治療できなかったケースはこれまでに一例もありません。

認知症がありますが、手術を受けられますか?

認知症があっても手術は可能です。 ただし入院すると生活環境が変わりますので、認知症が(一時的に)進行する可能性があります。 入院期間を極力短期とすることで、影響が最小限になりますので、短い入院期間で治療してくれる医療機関をお探しになるとよいでしょう。

なお、手術の翌日から退院まで、できるだけご家族との面会時間を長くもっていただき、患者さんに安心していただければ、認知症に関わる多くの問題は解決します。 新型コロナの影響がなくなって自由に面会ができるようになる日が早く来てほしいものです。

なお、ご自身で便の汚れを処理できないほどの認知症がある場合には、治療後は家族や介護者の負担が減って喜ばれることが多いです。

精神疾患がありますが、手術を受けられますか?

精神疾患があっても手術は可能です。 ただし、精神疾患の病態により、外科的処置以外に精神科的な医療を並行して提供する必要がありますので、対応可能な医療機関で治療を行う必要があります。 詳細は精神疾患と直腸脱のページをご参照ください。

筆者の場合は、精神科専門基幹病院であるとともに外科も備えた総合病院と提携していて、そこに入院をお願いし、手術には筆者自身が参加させてもらうことで、最適な治療を提供しています。

肛門部の違和感が精神症状に悪影響していた場合はそれが緩和されることもあります。

他院で手術を受けましたが再発しました。再手術を受けられますか?

著者は、術後再発症例の治療にも積極的に取り組んでいます。 他院での術後に再発し、「再手術は無理」「諦めて我慢してください」と言われた患者さんに対する根治手術も多くの実績があります。 特に、経会陰的手術(経肛門的手術, おしり側からの手術)の後の再発であればほぼ問題なく治せます。

諦めないでください

寝たきりですが、手術を受けられますか?

直腸脱を治すことによるメリットが小さいと判断されれば、通常、手術はおこないません。 しかし、陰部の便汚染や出血などが大きな問題になっている場合には、専門医に相談することで、他の方法も含めて何かしら解決策が見つかる場合があります。

腸が脱出したまま戻らなくなってしまいました。どうすればいいですか?

戻らなくなることはほとんどありませんので、まずは、落ち着いてください。 自分で戻せないときは、可能であればご家族に手伝ってもらって、脱出したままの直腸脱の戻し方のページを参考にして戻すことを試みてください。

痛みが強かったり、脱出した腸が腫れて出血していたり、血液の循環が悪くなって黒ずんでいる場合などは緊急事態の可能性があります。 対応可能な病院を探して急いで受診してください。

高齢のため他の病気も持っているので心配です。

内科やその他専門科の医師が外科と協力して治療に当たることのできる総合病院であれば、全身を診ることができますので、より安心と思います。

入院期間はどのくらいになりますか?

これは医療機関や担当する外科医の考え方などによるところが大きいです。

著者が執刀する腹腔鏡手術の場合は、手術の前日にご入院いただき、手術後3日目の退院を標準としています。 術後2日で退院なさる方も多いです。 ようするに、3泊4日ないし4泊5日です。

詳細は、治療の流れ の記載をご覧ください。

デロルメ法などの経会陰的手術の場合には、手術後5~7日間程度としています。

病院へは何回くらい通う必要がありますか?

これはどのような術前検査を行うかによりますので、医療機関の体制や、担当する外科医の考え方などによるところが大きいです。

筆者の場合は、以下のようにしています。

  • 初診時に確定診断できた場合には、手術前の通院回数は初診を含めて1~3回です。
    • 朝一番の予約であれば、その日のうちに術前検査がすべて済んでしまうことは珍しくありません。
    • 重要臓器の異常が疑われる場合など、追加検査が必要になる場合には必要な受診回数は多くなります。
  • 術後は退院後1~2週間程度で外来を受診していただきます。
  • 問題が無ければ、次は1年後の診察となります。

ご高齢の患者さんが多く、遠方からいらっしゃる患者さんも多いので、通院回数をなるべく少なくするよう心掛けています。

詳細は、治療の流れ の記載をご覧ください。

病院の予約を取ろうとすると紹介状が必要と言われましたが必要ですか?

一部の病院では、初診の予約を取ろうとすると紹介状が必要と言われ、紹介状を持たずに受診する場合に「特別の料金 = 選定療養費」が発生します。 これは、患者の待ち時間や勤務医の外来負担等の課題を改善することを目的とした厚生労働省の制度です。

しかし、直腸脱のようなまれな疾患の場合、患者さんに負担をかけるだけのあまり意味の無い制度のように感じる場合もあります。

実際のところ、紹介状を書いてもらうためだけにどこかを受診するのが大変であれば、選定療養費を払うことを選択するのもありだと思います。 ただし、普段から治療中の別の疾患があるなら、ぜひ紹介状を書いてもらっていただきたいです。 特に、内服している薬については、その内容だけでなく、なぜ内服しているかの情報が手術のために必要な場合があります。

手術が決まったら、手術までにやっておくべきことは何ですか?

まず、できるだけ体を動かしてください。 直腸脱になるとどうしても体を動かすのがおっくうになりますが、じっとしていると体力が落ちるだけでなく、血栓症のリスクが高まります。

便秘がちであるなら、水分をしっかり摂って体を動かし、必要に応じて便秘薬などで解消しておいてください。 大腸に便が詰まっていると、腹腔鏡手術がやりにくくなり、すなわち安全性が損なわれることにつながります。

あとは、歯を磨いてお口の中を清潔に保つよう心がけてください。 お口の中が不潔ですと、術後の肺炎などのリスクが高くなると言われています。

手術後は食事はいつから始まりますか?

著者が行っている腹腔鏡手術では、手術の翌日から食事をとっていただけます。

手術後はいつから歩けますか?

著者が行っている腹腔鏡手術では、手術の翌日には歩くことができます。

お腹の創はどのくらいになりますか?

著者が行っている腹腔鏡手術では、お臍に径1.2cm、その他4カ所の径0.5cmの孔を開けて、腹腔鏡のカメラや鉗子を挿入して手術をします。 メッシュや縫合用の針糸もその孔を通してお腹に入れることができます。 創はそれだけですので、お体の負担や痛みは小さいです。

腹腔鏡での手術ということですが、大きくお腹を開ける開腹手術に途中で変わることはありませんか?

お腹の中の癒着が極めて高度で腹腔鏡での手術が完遂できない場合や、他臓器損傷を起こしてしまった場合などは、開腹手術に移行する可能性があります。 幸い、著者はこれまで腹腔鏡で完遂できなかった例はありませんが、症例によっては困難な場合もあり得ますので、開腹手術となってしまう可能性は常にあると考えてください。

腹腔鏡手術における合併症にはどのようなものがありますか?

筆者の手術では、術後譫妄以外には、腸閉塞が1例に生じています。 ほかに、退院前にインフルエンザにかかって重篤化した患者さんや、退院後早期に全く別の疾患にかかられた患者さんがいらっしゃいます。 比較的安全性は高いと自信を持っていますが、全く合併症が生じないというわけではありません。

一般的な腹腔鏡手術の合併症については、治療ページの腹腔鏡手術における合併症の項にて詳しく説明してあります。

直腸の固定にメッシュを使うということですが、メッシュとはどのようなもので、なぜ使うのですか?

メッシュは、プラスチックでできた専用の網目状の材料です(みかんが入って売られている赤いプラスチックの網を想像してください)。これを細長く切って使います。

直腸脱はもともと骨盤底の支持組織が脆弱なために生じる疾患です。したがって直腸を吊り上げて縫合するだけでは再発のリスクがあります。メッシュを使用すれば固定が強固になるので、再発を防ぐことができます。もともとデロルメ法などの経会陰的な手術と比較すると再発率は低いのですが、再発を極力減らすためにはメッシュを使うほうが望ましいと考えます。

メッシュを使わない手術を標準とする医療機関もあります。メッシュを使うデメリットは何ですか?

以下のデメリットがありますが、何れも大きな問題ではありません。

  • メッシュはプラスチックですので一生体内に残ります。感染には弱いので、手術の時にばい菌がついてしまうと慢性的な炎症を起こしてしまう可能性があります。しかし、完全な滅菌状態で手術をしますので、著者はメッシュが感染した経験はありません。
    • いったん完全に固定したあとで、新たに感染を起こしてしまう心配はありません。
  • メッシュで固定する際に直腸との位置関係によってはメッシュが直腸に食い込んでしまって合併症を起こすということも報告されています。筆者は直腸の壁の薄い部分をメッシュが圧迫することがないよう工夫していますので、メッシュが直腸に食い込んで生じた合併症は起こしたことがありませんし、その可能性は非常に低いと考えています。
  • メッシュで固定する際に針糸を深くかけすぎて粘膜を貫通してしまい、便が付着して感染の原因になることがあるようです。しかし、筆者の術式では、そもそも直腸に深く針をかける必要がありませんので、本質的にそのような合併症は生じません。

そのため、メッシュを使用するかどうかは、患者さんの症状や病状に合わせて、医師が判断する必要があります。医師が適切な手術方法を選択することで、最も効果的な治療が行われることが期待されます。

将来直腸がんなど他の病気になったときに支障はありませんか?

もしもメッシュで固定した部分の直腸にがんが発生した場合には、手術の難易度が上がってしまいますが、治療ができなくなるわけではありません。 なお、直腸脱の手術の前に大腸内視鏡で直腸がんがないことを確認することが望ましいです。

他の病気で内服中の薬がありますがどうすればいいですか?

医療機関を受診の際には、必ずお薬手帳などの確認できる資料を常にお持ちください。 血液さらさらの薬などは、処方医に確認した上で術前に休薬することが一般的です。

骨盤底筋体操をやっていればそのうち治るのでは?

残念ながら、骨盤底筋体操により直腸脱が治癒することはありません。 また、進行を抑える効果もほとんど無いといわれています。

ただし、腹腔鏡による吊り上げ手術後に、引き伸ばされ弛緩した肛門の回復を促す効果はある程度期待できるかと思います。

ロボット手術が良いと聞きましたが、本当ですか?

ある意味では本当ですが、実は現時点では大きな問題もあります。

直腸脱の腹腔鏡手術では、組織やメッシュを縫合する操作が重要となります。 一般的には、骨盤深部での針糸を使った縫合操作などの細かく複雑な操作は、技術的な困難を伴います。 しかし、ロボット手術機器を用いれば、多関節の鉗子で細かい操作が容易に可能ですので、このような縫合操作の多い手術では特に有用とされます。 要するに、ロボットを使えば手術手技が簡単になるようです。

一方で、ロボット手術では「力加減」がわからないことが大きな問題です。 術式にもよりますが、筆者の手術では、メッシュを縫合する際に、適切なテンションをかけながら (引っ張りながら) 縫合することで、最適な結果が得られるよう工夫しています。 しかし、ロボットの場合、どの程度の力で引っ張っているかは、手の感触としては伝わらず、画面だけから判断する必要がありますので、その点は逆に難しいと思います。 特に高齢者では組織が脆弱ですので、強く引っ張りすぎて裂けてしまうなど、危険な場面もあり得るのかなと想像してしまいます。 実際に、ロボット手術では、力の加減がわからないことに起因する事故がいくつも起こっています。 ただし、それに対する反省から技術革新が進められていますので、この点は改良されることが期待されます。

手術の創とそれに伴う痛みに関してですが、筆者の腹腔鏡手術ではカメラ用に1.2cmが一つ、それ以外に鉗子用に0.5cmが4つの創になります。ロボットでは鉗子用が0.8cmですので、やや大きな創となります。

もう一つの問題点はコストです。 ロボット手術は腹腔鏡手術の数倍のコストがかかってしまいます。 誰が負担するかにかかわらず、避けて通るべきではない問題だと筆者は考えます。 商業主義的な面からの推進には賛同できません。

ガント-三輪-ティルシュ手術が侵襲が少ないそうですが、なぜおすすめではないのですか?

ガント-三輪-ティルシュ手術は日本では未だに広く行われていますが、海外では行われていません

個人的には、再発率が高く、合併症、後遺症も多いため、おすすめできません。 おすすめしない理由のページをぜひご覧ください。


筆者の手術を受けていただくには