直腸脱の治療の流れ

筆者の腹腔鏡手術をお受けになる場合の、初診から終診までの一般的な流れを参考までにお示しします。 なお、この内容は固定したものではなく、それぞれの患者さんごとに調整しますので、必ずこのような経過となるとは限りません。

また、患者さんおよびご家族にお願いしたいこともいくつかありますので、ご協力をよろしくお願いします。

いつでも脱出する場合以外は、脱出時の写真を事前に用意してから受診していただくと、すぐに確定診断できますのでスムースに治療を計画できます。

高齢などの理由で、患者さんご本人の来院が難しい場合には、まずはご家族のみの代理受診でもお受けします。

持病がある場合には、主治医からの紹介状と、お薬手帳をご用意ください。 特に、抗血栓治療中の場合は、その治療 (血液さらさらの薬の内服) を手術前後に中止して良いかどうかをあらかじめ確認しておいていただけると助かります。

他院での術後再発や、前医の対応に不満などの理由で紹介状をもらうことが難しければ、直接受診していただくことも可能です。 その場合、選定療養費の負担が生じてしまいますことをご了承ください。

術前検査が初診日に終わってしまうこともしばしばありますので、その場合は術前の通院は1回で済むことになります。 初診日はできるだけ時間に余裕を持って受診してください。

「直腸脱」と紹介状に書いてあるとしても、しばしば直腸粘膜脱だったり脱肛だったりします。 鵜呑みにすることはできません。 必ず筆者自身が実際の脱出を確認するか、写真で確認するかしなくては、治療に進めません。

通院の負担を減らすため、初診時に手術が決まれば、可能であれば当日中に術前検査を行うようにしています。ですので、午前中のなるべく早い時間に受診してくださると通院の負担を減らせます。

一般的な検査内容は、採血、胸腹部レントゲン、胸腹部CT*、心電図、肺活量*です。
65歳以上の場合や心電図異常がある場合には、心臓超音波検査* (体表から超音波で心臓の動きを直接観察する検査) を追加します。
* は予約検査ですが、もし当日に空き枠があれば即日検査可能です。

外来術前追加検査

一般検査にて異常が見つかった場合には、追加検査が必要となる場合があります。

しばしば引っかかるのが、血液検査のDダイマーです。 これは、深部静脈血栓症 (DVT) など血栓の存在を示唆する指標です。 Dダイマーが高い場合には、超音波検査にて下肢静脈に血栓がないかどうかを調べます。

直腸脱のせいでじっとしていることが増えてしまうと、下肢静脈に血栓ができやすい状態となり、その血栓が流れて肺に詰まると突然の呼吸苦の原因となります (エコノミークラス症候群)。

これは手術後の突然死のリスクとなるので対策が必要となりますが、必ずしも手術ができなくなるわけではありません。

逆に、直腸脱のせいで血栓ができやすいのなら、長期的には治療によって突然死のリスクを減らせる可能性があると考えています。

抗血栓治療中の場合は、その治療薬 (血液さらさらの薬) の内服を術前に一定期間休薬していただきます

休薬期間は、外来にて詳しく説明します。 休薬が難しければ、内服継続のまま手術する場合もあります。

指示を忘れて抗血栓治療薬を飲み続けてしまうと、手術ができなくなってしまうことがありますので、指示は必ず守ってください。

手術予定の1週間前から、便秘薬を飲んでいただきます

これは、できるだけ腸を空っぽにして手術をやりやすくするためです。 「手術がやりやすい」ということはすなわち「手術が安全にできる」ということですので、多少便の回数が増えても頑張って飲んでください。

ただし、要するに手術の時に便が溜まっていなければ良いので、ご自身で判断して、下痢になったら飲むのを控えてください。 また、水分をしっかり摂って、体を良く動かすことも重要です。 便秘薬は外来で処方します。

上でも少し触れましたが、エコノミークラス症候群という病気をご存じでしょうか? 食事や水分を十分に摂らない状態で、車などの狭い座席に長時間座っていて足を動かさないと、血行不良が起こり血液が固まりやすくなります。 その結果生じた血の固まり(血栓)が血管の中を流れ、肺に詰まって肺塞栓などを誘発する病気がエコノミークラス症候群です。

直腸脱の患者さんは、出歩くのがおっくうになったりして体をあまり動かさない方が多いため、下肢静脈に血栓ができやすい状態となり、血栓のリスクは高いです。 手術を計画する段階で、血栓ができていないかを必ず確認して対策してはいますが、手術直前に新たな血栓ができることのないよう、水分をしっかり摂って、できるだけ体を良く動かしてください。

通常は手術前日の午前中の入院となります。 朝食はいつも通り摂っていただいて構いません。

多くの場合、入院日の午後に大腸内視鏡を行います。 これは、手術で固定する直腸の状態を確認することが目的です。

手術時間は2~3時間程度です。

麻酔から覚めたら、術後の状態を厳重に管理する目的で、重症患者用病棟に入室します。

手術翌日には一般病棟に戻ります。 お昼から食事が始まり、リハビリスタッフが介入して歩行開始します。

退院おめでとうございます

標準は術後3日目の退院です。 若年でお元気な場合には術後2日目での退院も可能です。

術後譫妄が強ければ、早くもとの環境に戻す方が回復が良いので、身体的な問題が無ければ高齢であっても術後2日目で退院とする場合があります。

退院後は、食事制限はありません。

シャワーは退院日から可能で、創部が濡れたり石けんが付いても構いません。 浴槽へ浸かるのは、術後1週間から可能です。

血液さらさらの薬の再開は、退院時の指示に従ってください。 通常は、退院後は内服薬の制限はありません。
もともと便秘がちの方は、便秘薬を早めに再開してください。

術後1~2週間で外来を受診していただき、創部の確認と、直腸のつり上がり具合を確認します。

特に問題が無くても、術後1年経ったら外来を受診してください。

筆者としては最善の手術をしているつもりですので、その結果がどうであるのか確認する責務があります。
そして、その結果からフィードバックしてより良い治療を提供したいと考えています。
「調子がいいので病院に行く必要も無いし面倒だな」と思われるかもしれませんが、ぜひご協力ください。

もちろん、なにか具合が悪い場合には遠慮せず速やかに受診してください。 なお、できるだけお電話で予約を取っていただくとスムースです。


筆者の手術を受けていただくには