脱出したままの直腸脱の戻し方

脱出したまま自然には戻らなくなってしまっても、ほとんどの場合、コツさえつかめば戻すことは容易です。 また、緊急事態ではないことがほとんどですので、落ち着いて対処してください。

ただし、痛みが強かったり、脱出した腸が腫れて出血していたり、血液の循環が悪くなって黒ずんでいる場合などは、「陥頓 (かんとん)」といって緊急事態の可能性があります。 対応可能な病院を探して急いで受診してください。

もしも、以前にティルシュ法 (肛門に紐を通して締める手術) を受けたことがある場合には、陥頓が戻りにくく、脱出した腸管の壊死が生じやすいです。 十分に注意し、早めの対処をお願いします。

いずれにしても、手術を受けてきちんと治してしまえば解決するわけですから、まずは迷わずに専門医にご相談いただくことをお勧めします。 直腸脱は自然に治癒することはなく、通常は次第に悪化し、肛門機能も低下します。 高齢であることや認知症があるというだけで諦めてはいけません

受診の際には、脱出時の写真があれば診断がスムースです。

筆者の手術を受けていただくには

まずは、柔らかい座面の椅子に座り、ゆっくりと体重をかけてみてください。 おなかに力を入れず、落ち着いた状態で、そのまま数分間座ったままでいましょう。

痛みが激しい場合には、無理には試さないでください。

患者さんごとに「戻りやすい体の向き」があるようです。 一度コツをつかんでおくと安心です。 (いずれにしても早めに専門医を受診し、手術を受けて治しましょう!)

家族や介助者にできる直腸脱還納法

まず、患者さん本人には、体の左側を下にして、真横を向いて寝てもらいます。 その状態でお尻を出してもらってください。

脱出した直腸を、ゴム手袋などをした右掌で包むようにして優しく握りながら、全体を肛門のほうに軽く押してあげると容易に戻ります。 患者さんには、おなかの力を抜いておくようにお願いしてください。

もしも長時間の脱出で粘膜が乾燥しているようなら、あらかじめ少し水で湿らせてください。

家族や介助者にできる直腸脱還納法

ただ押し付けて押し込もうとするだけでは、変形したりずれたりしてなかなか戻りにくいです。 図のように「包み込む」のがコツになります。

直腸粘膜は、触ってもそう簡単には傷ついたりばい菌が入って感染を起こしたりはしないものですので、ある程度は力を入れても大丈夫です。 もともと便が通るところですからね。

なお、還納を試みる方が左利きの場合は、左右逆にしたほうがやりやすい場合があります。

上記の手技でも還納できない場合には、以下を試みてください。

  • 浮腫んでしまっている場合には、しばらく手で握って圧力をかけ水分を戻すことで、還納しやすくなります。
  • それでも還納困難であれば、次項で示すガーゼ挿入法を試みてください。
  • 人工肛門の脱出の場合と同様に、砂糖をかけるとむくみが取れて還納しやすくなるという報告もあります。これは浸透圧を利用する方法で、ナメクジに塩をかけるとしぼむという原理に基づきます。たぶん安全なのだろうと思いますが、確立された手法ではなく、医療者としては安易に適用すべきでないと思っていますので、筆者は試したことがありません。また、実際のところ必要としたこともありません。
  • ティルシュ術後で、明らかに血流障害が生じていれば、以下の緊急処置も検討してください。
    • ティルシュのリングを蝕知し、その直上の皮膚を切開します。皮下を剥離し、リングをペアンで把持けん引して切離します。6時方向 (背側) が切りやすいと思いますが、触ってみて浅い部分があればそこを狙います。
    • 多くの場合、リングの切離後は容易に還納されますが、腸管が壊死している場合には緊急手術の適応です。
    • 局所麻酔で十分に可能です。
この方法は、直腸脱以外の場合、すなわち痔核脱出 (脱肛) の嵌頓の場合には適用すべきではありません。

2枚のガーゼの角を縛ってつないだものを、長鑷子を用いて端から丁寧に直腸内腔に挿入してゆく方法です。 伸縮性のない木綿の包帯でも代用できます。

もともとの論文では1枚のガーゼですが、完全に入ってしまって心配な場面があったので、あらかじめ2枚つないでおくほうがいいかと思います。

ガーゼ挿入法による直腸脱還納

3~5cm程度ずつ、順繰りに挿入します。 ガーゼとの摩擦により、まず粘膜が内腔側に引き上げられ、そのうち全体が還納されます。

水分の吸収と摩擦が重要ですので、ガーゼは乾いた状態で使ってください。

不思議なほどするすると戻りますので一度お試しあれ。

抜去は、粘液により比較的スムースに可能ですが、できるだけ愛護的にお願いします。

このサイトは、外科医である筆者が正しい情報に基づいて記載しておりますが、その内容にお読みになって生じる結果については、筆者は責任を取りかねます。 あらかじめご了承ください。

筆者の手術を受けていただくには