ガント-三輪手術、ティルシュ手術に対する私見

「手術侵襲が少なく、高齢者にも優しい治療法」とされることもあるガント-三輪手術およびティルシュ手術を筆者が施行しない理由は以下の通りです。

素晴らしい手術をなさっているエキスパートの肛門外科の先生方におかれましては、不愉快に感じられることと思います。 しかし、そうではない手術の結果、再発や合併症に苦しむ多くの患者さんを診させていただいた経験に基づく考えですので、お赦しいただければと思います。

筆者が研修医のときに習ったのがガント-三輪手術にティルシュ手術を組み合わせる術式でした。 脱出していた直腸が、粘膜を縫い縮めるにつれだんだんと肛門内に引き込まれてゆくのは、やっていて快感でした。 しかし、ガント-三輪手術だけでは半数以上が再発すると言われています。 そのため、ティルシュ手術を同時に行い、少しでも再発を減らそうとするのです。


ガント-三輪-ティルシュ手術は、手術侵襲が少なく、高齢者にも優しい治療法だとの主張があります。 確かに、出血も殆どなく、30分から1時間程度で終わる簡単(??)な手術です。 手術そのものによる体の負担は少ないでしょう。

しかし、ガント-三輪手術においては、「絞り染め粘膜縫縮」の個数や針をかける深さが重要です。

個数が足りないと再発しやすくなります。 針をかける深さも重要で、浅い (粘膜下層まで) と再発、深い (筋層を超える) と穿孔し腹膜炎という極めて重篤な合併症の原因となりえます。 「術者の手の感触」による要素の大きい部分であり、再発と合併症がトレードオフの関係です。 そもそも、直腸周囲にまで炎症が波及することが再発防止に役立っている、という事実を、どれだけの施行医が認識しているのか疑問です。

参考資料:


ティルシュ手術は、「肛門を紐で縛って狭くすることで、押し込んだ直腸を出てこないようにする」手技ですので、紐を留置する深さと縛った後の肛門の狭さが重要です。

どの程度の狭さにするかは、よく「指が二本ぎりぎり入る程度」「20mLの注射器を入れて締める」などと言われますが、適切な狭さになるかどうかは完全に術者の技量にかかっており、術後に調整することは不可能です。 広すぎれば再発し、狭すぎれば便秘で便塊が詰まってしまうという心配がつきまといます。 一部の患者さんには、常に肛門が塞がったような不快感と排便の苦しみが一生続くことになります。

紐は肛門管を取り巻くように比較的深く留置する必要がりますが、しばしば浅すぎて肛門の皮膚のすぐ下に触ります (皮下の紐が触ってわかる = 浅すぎる)。 浅すぎると、排便時の肛門痛、皮膚のびらんや潰瘍、紐の露出、感染といった合併症を引き起こします。


極端な例なのだろうと思いますが、筆者のところに相談にいらした、ティルシュ施行後に完全直腸脱が再発した超高齢の患者さんは、脱出した腸管が血流不良を起こして一部が壊死していました。 また、不適切な深さに留置されたティルシュの紐で肛門の皮膚が排便のたびに圧迫され、激痛に苦しんでいた方もいらっしゃいました。 ガント-三輪術後に炎症から高度な直腸狭窄 (内径が1cm程度) となり、排便困難と、大量の下剤による便漏れに苦しんでいる方もいらっしゃいました。 そのような深刻な方に限らず、筆者は多くの術後再発に対する再手術や合併症に対する治療を行ってきました。

このような手術は、本当に侵襲の小さな手術なのでしょうか?

筆者は、ガント-三輪-ティルシュ手術は、術後の合併症や再発率を考えると、決して侵襲は小さくないと考えています。 手技が簡単と言われていて、手術時間も短いですが、「患者さんが期待している結果にならない確率」で考えると、もしかすると、この手術はあらゆる外科手術の中で最もその確率が高い手術なのかもしれません。 もちろん、真のエキスパートが上手な手術をした場合は良い結果が得られるのでしょうが、現実はそればかりではないのです。


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